あらすじ
舞台は晩唐、絹の道(シルクロード)。亡国〈楼蘭〉の風の慟哭。無常の世を嘆くかのように吹き荒れている。一人の康国(サマルカンド)の商人がいた。彼は知恵の探求の生を切望する稀有な者であった。不運にも敦煌にて、その商人は貪汚な盗賊の〈隻眼〉と〈痩躯〉によって捕らわれの身となり、楼蘭遺址の財宝探しに拘引される。砂漠と盗賊による「真実の地獄」の状況は、彼の心底に眠る僅かな反宇宙論的思想を覚醒させ、増大させた。だがそれでも、至高者(第一原因)としての最高善に向けて純化する魂があった。憂悶する思惟の颶風。最高悪の概念との対峙。内なる善悪の葛藤から知恵による浄化へ。商人は反宇宙的二元論の思考を克服し、実体一元論の思想によって最高善の最高完全性の認識に到達することになる。連綿として伝えられる風紋の如き知の教えに根差す普遍性に読者を導く。縹渺たる焦熱砂漠を舞台に紡がれる討究する魂の思想書。
編集者から一言
唐の時代のシルクロード。サマルカンドの或る商人は、楼蘭遺跡の宝の在処を知っていた。欲深な盗賊たちがそれを得るために、その商人を強制的に連行する。過酷な砂漠の状況は、彼の中に眠る僅かなグノーシス主義、善悪二元論の思想を目覚めさせた。商人の内で常闇の厭世観が肥大化していく。砂漠の熱風は、いかなる静謐な魂も焚焼する。それでも、自己の明知によって反宇宙論からなる最高悪を克服し、最高善の世界の究理に努めていく。世界を司る深奥なる最高完全者に向けて昇り続ける商人。陽炎の立つ灼熱の砂漠にて、万有の否定から肯定へと思想的転換の達成によって看取された完全なる世界とは? 倉石清志による普遍の珠玉の思想書。
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新聞書評掲載
西日本新聞 (2022年8月27日) 朝刊の「読書館」にて、倉石清志著『風紋哀詩』の書評が掲載されました。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/979267/
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